「学校を変えれば、社会が変わる」【3後/5】

〜 なぜ今、管理教育から主体性を育てる教育へ転換しなければならないのか 〜
工藤勇一 2026.07.03
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Vol.1 民主主義は進化する 
Vol.2 学校が政治に無関心な国民をつくっている
Vol.3 封建社会の学校から、民主主義の学校へ(後編) ◀ 本号
Vol.4 自主性を求める教育と、主体性を育てる教育はどう違うのか
Vol.5 対話の文化を、教室から社会へ

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【Vol.3】封建社会の学校から民主主義の学校へ(後編)

〜 子どもが学校を変えると、社会が変わり始める 〜

「歌は、本来楽しいもの」

麹町中学校では、長い間、合唱コンクールが伝統行事として続いていました。
私も校長になって最初の二年間、その歌声には心を動かされました。
一方で、強い違和感も覚えていました。
舞台に上がるところから、歌い終わって舞台を降りるところまで、一糸乱れぬ動き。
まるで軍隊のような緊張感。
さらに、勝敗を競うことで、練習の段階からクラスの人間関係がぎくしゃくし、終わったあとには勝ったクラスと負けたクラスが生まれる。
音楽を楽しむための行事なのに、歌うことが苦しくなっている子どもたちも少なくありませんでした。
しかし、私は校長だからといって、「今日から合唱コンクールをやめます」と言うつもりはありませんでした。
それでは、民主主義を生徒たちに教えることができなくなるからです。

3年ほどの時間がかかったでしょうか。
「誰一人取り残さない」「全員が楽しめる」という考え方を、生徒たち、教員、保護者、学校全体で少しずつ共有していきました。
まず課題曲がなくなりました。これによって、競争の色合いが薄まりました。
次に、自由曲には現代の楽曲も選べるようになりました。
会場の空気が大きく変わりました。生徒も観客も、一緒になって音楽を楽しむ文化が育ち始めたのです。

そして、その翌年でした。
生徒会から、一つの提案が出されました。
「合唱コンクールをやめませんか。」

私は少しも驚きませんでした。
むしろ、「ここまで育ったか」と感じました。
生徒たちの考えは、とてもシンプルでした。
「本来、歌は楽しいもの。」
「一人で歌っても楽しいけれど、みんなで歌えばもっと楽しい。」
「その歌を聴いた人たちが幸せな気持ちになってくれたら、もっと素敵だ。」
だから、
「全員が強制的に参加しなくてもいいのではないか。」
歌いたい人が歌えばいい。」

その方が、本当に音楽を楽しめる。
合唱コンクールは文化祭の一部でしたから、その考え方は、ごく自然なものでした。
もちろん、この考え方が突然生まれたわけではありません。

「誰のため。」
「何のため。」
「誰一人取り残さない。」

私は何年もかけて子どもたちに民主主義の基本的な考え方を伝え続けてきました。
しかし、子どもたちが、それを自分たちの言葉として語り始めた瞬間、それはもう私の考えではありません。
学校の文化そのものになっていたのです。

「ここは自分たちの社会だ」と思えたとき、人は変わる

私は、この出来事を通して、一つ確信したことがありました。
子どもは、責任を与えられるから成長するのではありません。
「ここは自分たちの社会だ」と思えたとき、人は初めて自ら責任を引き受け始める。私は、そのことを確信しました。

そのことを象徴する出来事が、もう一つありました。
ある日、一人の男子生徒が校長室へやってきました。
以前から何度も校長室で話をしてきた生徒です。正義感が強く、腕っぷしも強い。問題を起こすこともありましたが、そのたびに私は、「違いを認めること」「対話すること」について、一緒に考えてきました。
そんな彼が、ある日こう言ったのです。
「校長先生、なんで給食当番って持ち回りなんですか。」
理由を聞くと、こう続けました。
「給食当番の仕事って、みんなが早く給食を食べられるようにすることでしょう。早く食べ終われば、その分、昼休みに遊ぶ時間が増えます。僕は昼休みに長く遊びたいから、そのためなら毎日給食当番をやってもいいです。」
私は思わず笑ってしまいました。
そして、
「それは面白い考え方だね。給食委員会で提案してみたらどう?」と伝えました。
すると、給食委員会の生徒たちは彼の考えに賛同し、本当に学年全体に提案したのです。

「本当にボランティアの希望者だけで給食当番活動は回るのだろうか。」
それを確かめるために、生徒たちは2週間の実証実験を行うことにしたのです。

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続きは、3109文字あります。
  • 民主主義は、学校から社会へ広がっていく
  • 私が本当に目指していたもの

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